トランプ氏、グリーンランド担当特使を任命 「米国の一部にする」と明言し、NATO同盟国デンマークとの緊張高まる
トランプ米大統領が、ルイジアナ州知事をグリーンランド担当特使に任命。同島の米国編入を公言し、NATO同盟国デンマークとの間に緊張が走る。北極圏をめぐる地政学的対立の新たな局面を解説します。
核心部分
米国のドナルド・トランプ大統領は21日(日曜日)、ルイジアナ州のジェフ・ランドリー知事をグリーンランド担当の米国特使に任命すると発表しました。AP通信によると、トランプ大統領はグリーンランドを「米国の国家安全保障にとって不可欠」と位置付けており、ランドリー氏の任命は、鉱物資源が豊富で戦略的要衝である同島の米国編入に向けた動きを本格化させるものです。
任命の背景と目的
トランプ大統領はフロリダ州ウェストパームビーチでの発表で、「ジェフはグリーンランドがいかに我々の国家安全保障にとって重要かを理解している。彼は同盟国、ひいては世界の安全、保障、存続のために、我が国の利益を強力に推進するだろう」と述べました。
これに対し、ランドリー知事も同日、X(旧ツイッター)への投稿で任命を受諾。「このボランティア職務であなたに仕え、グリーンランドを米国の一部にすることに貢献できるのは光栄です。これはルイジアナ州知事としての私の立場に何ら影響を与えません!」と述べ、特使としての目標を明確にしました。
グリーンランドとは?
グリーンランドは、デンマークの広大な半自治領です。地理的には北米大陸に属し、北極圏に位置するため、近年その地政学的な重要性が高まっています。米国は島内にチューレ空軍基地を維持しています。
エスカレートする米国の圧力:タイムライン
今回の特使任命は、トランプ政権によるグリーンランドへの関与を強める一連の動きの最新のものです。
- 政権発足初期: トランプ大統領は、グリーンランドの米国による管轄権を繰り返し主張。軍事力の行使も排除しない姿勢を見せていました。
- 2025年上半期: JD・バンス副大統領が島内の米軍基地を訪問し、デンマークによる投資が不十分だと非難。
- 2025年8月: トランプ大統領に近い少なくとも3人がグリーンランドで秘密裏の影響力工作を行ったとの報道を受け、デンマーク当局が米国大使を召還する事態に発展しました。
国際社会の反応と北極圏の未来
米国の動きに対し、当事者であるデンマークとグリーンランドは一貫して「島は売り物ではない」との立場を表明しており、米国の諜報活動疑惑を非難しています。この米国の強硬な姿勢は、ロシアや欧州の多くの国々からも反対されています。ワシントンのデンマーク大使館は、ランドリー氏の任命に関するコメントの要請にすぐには応じませんでした。
デンマーク国防情報局は今月初めに発表した年次評価報告書で、「米国は自らの意思を貫徹するため、経済力を利用し、敵味方問わず軍事力を行使すると脅している」と分析。さらに、「ロシアと西側諸国の対立が激化するにつれ、北極の戦略的重要性は増している。米国が北極への安全保障・戦略的関心を高めることで、この流れはさらに加速するだろう」と指摘しています。
PRISM Insight
今回の特使任命は、単なる外交人事ではありません。これは、気候変動による氷の融解で新たな航路や資源へのアクセスが開かれつつある北極圏が、米・中・露による大国間競争の新たな最前線になったことを象徴しています。トランプ政権の動きは、NATOという従来の同盟関係の枠組みよりも、地政学的な利益を優先する姿勢を明確に示すものです。これにより、デンマークは極めて困難な立場に立たされており、北極圏の安定とガバナンスが今後どのように変化していくのか、世界が注視しています。
関連記事
米国とウクライナの特使はマイアミでの協議を「生産的」と評価しましたが、約4年続く戦争終結への大きな進展は見られません。外交努力の裏で続く軍事衝突と、各国の複雑な思惑を解説します。
英国の元孔子学院院長が回顧録を出版。スパイ拠点やプロパガンダ機関との批判に対し、6年間の内部運営の実態を明かし反論。中国のソフトパワーを巡る論争に新たな視点を提供します。
米国務省がグリーンランドの首都ヌークに新領事館を建設。気候変動で重要性が増す北極圏で、ロシアと中国の影響力拡大に対抗する米国の戦略的な一手を解説します。
欧州連合(EU)がウクライナへの新たな資金援助を決定。脆弱な和平交渉が続く中、ウクライナの交渉上の立場を強化し、外交的解決を後押しする狙い。