スーパーコンピューター「シエラ」の死が教える、技術の宿命とは
世界2位だったスーパーコンピューター「シエラ」が7年で解体された理由から見える、技術革新の光と影、そして日本の技術戦略への示唆を探る
7年前、シエラは世界で2番目に速いスーパーコンピューターだった。今、彼女は完全に解体され、機密データを含むすべての部品が粉々に砕かれている。なぜ、まだ完全に動作する325億円の巨大マシンを破壊しなければならなかったのか?
栄光から死刑宣告まで
シエラは米国カリフォルニア州のローレンス・リバモア国立研究所で、国家核安全保障局の極秘シミュレーションを担当していた。240個のラックに収められた数千のIBM Power9 CPUとNvidia Volta V100 GPUから構成され、7,000平方フィートの床面積を占有していた。
ピーク時には94.64ペタフロップス(毎秒94兆6400億回の浮動小数点演算)を記録し、世界ランキング2位の座を誇った。しかし2024年末、彼女の後継機エル・キャピタンが登場すると、状況は一変した。エル・キャピタンは1.809エクサフロップスという圧倒的な性能で、シエラの19倍の処理能力を実現したのだ。
「バスタブ曲線」が示す技術の宿命
スーパーコンピューターの寿命は、IT専門家が「バスタブ曲線」と呼ぶパターンに従う。稼働開始直後は製造欠陥による故障が多発し、その後安定期を迎えるが、やがて老朽化による故障率が再び上昇する。
ノースイースタン大学のデヴェシュ・ティワリ教授は語る。「人間と同じように、年を重ねれば病気になりやすくなり、より多くのケアが必要になる」
シエラの場合、IBMもNvidiaも該当部品の生産を終了し、使用していたRed Hat Enterprise Linuxのサポートも打ち切られていた。交換部品の調達は困難を極め、維持費用は膨大になっていた。
日本への示唆:「富岳」の未来
日本のスーパーコンピューター「富岳」は2020年に運用を開始し、一時は世界1位の座に就いた。しかし、シエラの運命は富岳の将来を考える上で重要な教訓を提供する。
日本の技術戦略において、ハードウェアの継続的な更新は避けて通れない課題だ。理化学研究所や富士通などの関係機関は、すでに次世代システムの検討を始めているが、シエラのケースは単純な性能向上以上の複雑な問題を浮き彫りにする。
解体という「血なまぐさいプロセス」
シエラの解体は、単なる廃棄処理ではない。国家機密を扱っていたため、データの完全な消去が必要だった。フラッシュメモリは粉末状まで粉砕され、磁気ドライブは政府認定の消磁装置で処理される。この装置の磁力は、近くのクレジットカードを破壊し、医療機器にも影響を与えるほど強力だ。
作業員たちは手袋を着用し、リチウムイオン電池を一つずつ取り外し、システムボード、プロセッサー、ラックフレームはすべて粗い破砕処理を受ける。この「血なまぐさいプロセス」は数か月を要し、完全な破壊まで徹底される。
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