AI スタートアップの「二段階評価額」戦略が示すバブルの兆候
競争激化するAI投資市場で、リードVCが同一ラウンドで異なる評価額を設定する新手法が登場。ユニコーン企業を演出する一方、将来のダウンラウンドリスクも
10億ドルの企業価値を誇るユニコーン企業。しかし、その評価額の大部分は実際には4.5億ドルで取得されていたとしたら、あなたはどう思うだろうか。
Aaruという合成顧客リサーチのAIスタートアップが、まさにこの新しい資金調達手法を採用した。リード投資家のRedpointは、投資額の大部分を4.5億ドルの評価額で投資し、残りの小額を10億ドルの評価額で投資した。他のVCは全て10億ドルの価格で参加している。
「見出し評価額」が生み出すマーケットの錯覚
この手法は、AI投資市場の過熱ぶりを象徴している。Primary Venturesのジェイソン・シューマン氏は「巨大な見出し数字は、他のVCが2番手、3番手企業への投資を躊躇させる戦略でもある」と指摘する。
従来、優良スタートアップは連続して資金調達を行い、その度に評価額を上げていた。しかし、頻繁な資金調達は創業者の製品開発への集中を妨げる。そこでリードVCが考案したのが、本来2回に分けて行う資金調達を1回にまとめ、異なる価格帯を設定する手法だった。
FPV Venturesの共同創業者ウェズリー・チャン氏は、この現象を「バブル的行動の症状」と評価する。「同じ商品を2つの異なる価格で売ることはできない。航空会社だけがこれを許されている」
日本企業への示唆と投資環境の変化
日本のベンチャー投資環境では、まだこのような極端な評価額操作は一般的ではない。しかし、ソフトバンクのVision Fundのような大型ファンドが海外投資を活発化させる中、日本のスタートアップも国際的な評価基準に晒される可能性が高まっている。
特に注目すべきは、日本企業の慎重な投資文化との対比だ。トヨタやソニーのような大企業は、AI分野での投資において技術の実用性と長期的な価値創造を重視する傾向がある。一方、この新しい評価手法は短期的な市場シグナルの最大化に焦点を当てている。
リスクの裏側に潜む危険性
問題は、これらの企業が次回の資金調達で「見出し価格」を上回る評価額を獲得しなければならないことだ。それができなければ、従業員や創業者の持分が希薄化するダウンラウンドとなり、パートナー、顧客、将来の投資家、新規採用候補者の信頼を損なう可能性がある。
Thiel Capitalのジャック・セルビー氏は「極端な評価額を追求するのは危険なゲーム」と警告し、2022年の市場調整を教訓として挙げる。「綱渡りのような状況に身を置けば、転落は容易だ」
ServalというAI搭載ITヘルプデスクスタートアップも同様の手法を採用し、Sequoiaの最低参入価格は4億ドルの評価額だったが、12月に発表されたシリーズBでは10億ドルの企業価値を謳っている。
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