蚊は「進化」している――マラリア対策の最前線で何が起きているか
年間60万人以上が死亡するマラリア。殺虫剤への耐性を急速に獲得する蚊の進化が、公衆衛生の根幹を揺るがしている。最新研究が示す脅威と、人類の対抗策とは。
人類が蚊を殺す薬を開発するたびに、蚊はその薬を無効化する方法を「学んで」いる。
もちろん、蚊に意思はない。しかし自然選択という冷酷なメカニズムが、まるで意図的であるかのように、殺虫剤に負けない蚊を次々と生み出している。年間60万人以上の命を奪うマラリアとの戦いは今、新たな局面を迎えている。
「10倍の濃度でも死なない」蚊が現れた
1990年代半ばまで、アフリカのアノフェレス属の蚊のほとんどは、ピレスロイド系殺虫剤に対して脆弱だった。ピレスロイドはもともとキク科植物から抽出された成分で、殺虫剤処理された蚊帳や屋内壁面への散布という2つの方法で広く使われてきた。この2つの手法だけで、2000年から2015年の間に5億件以上のマラリア感染を防いだと推定されている。
ところが今日、ガーナからマラウイにかけての地域では、以前の致死量の10倍の濃度でも生き延びる蚊が普通に見られるようになった。農業用殺虫剤への間接的な暴露も、この耐性進化を加速させていると考えられている。アフリカの一部地域ではすでに、マラリア対策に使われる主要4種類すべての殺虫剤に対して耐性を示すアノフェレスが確認されている。
これは単なる「虫の話」ではない。殺虫剤耐性の拡大は、蚊帳や屋内散布という最も費用対効果の高い感染症対策手段を根底から揺るがす問題だ。
南米でも進む「独立した進化」
進化遺伝学者のジェイコブ・テネッセン氏と8カ国の共同研究者たちは最近、南米における主要なマラリア媒介蚊、アノフェレス・ダーリンギの全ゲノム解析結果を発表した。ブラジルの大西洋岸からコロンビアのアンデス太平洋側まで、16カ所で採集された1,000体以上のゲノムを分析した大規模研究だ。
判明したのは、この蚊が持つ遺伝的多様性の驚くべき高さだった――人間の20倍以上。これほどの多様性を持つ種は、新たな課題に適応する「引き出し」が豊富にある。有利な突然変異が生まれる確率も高く、一度広がり始めれば、個体数の多さがその変異を守る盾になる。
対照的に、かつてアメリカ大陸に生息したハクトウワシは、殺虫剤DDTへの耐性を進化させることができずに絶滅寸前まで追い込まれた。数千羽の鳥と数百万匹の蚊では、進化の速度が根本的に異なる。
研究チームが特に注目したのは、耐性のメカニズムだ。アフリカの蚊でよく見られる「神経細胞のチャネル形状の変化」ではなく、アノフェレス・ダーリンギでは毒物を分解する酵素群(P450)をコードする遺伝子群の変化が確認された。この遺伝子クラスターは、殺虫剤使用が本格化した20世紀半ば以降、南米全土で少なくとも7回、独立して変化していた。
「独立して7回」という数字が示すのは、これが偶然の産物ではなく、強力な自然選択圧が同じ解決策を繰り返し生み出しているということだ。
人間にできること、できないこと
研究者たちは手をこまねいているわけではない。遺伝子ドライブ技術――特定の遺伝子改変を蚊の集団全体に強制的に広める手法――の野外試験が一部の国で始まっている。ゲノムスケールの解析による早期耐性検出、殺虫剤の種類を切り替えたり組み合わせたりすることで選択圧を分散させる戦略なども進んでいる。
ただし、遺伝子ドライブもまた、蚊の適応能力という壁に直面する可能性がある。進化は止まらない。
日本との接点は、一見薄く見えるかもしれない。しかし日本は、住友化学が開発した長期残効型殺虫剤処理蚊帳(オリセットネット)の主要サプライヤーとして、アフリカのマラリア対策に深く関わってきた歴史がある。殺虫剤耐性の拡大は、こうした製品の有効性にも直接影響する。さらに、気候変動による感染症の分布域拡大は、日本国内でも無縁ではない問題だ。
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