サヘル地域で外国人誘拐が急増、日本企業の海外展開に新たなリスク
西アフリカ・サヘル地域で外国人の誘拐事件が2025年に急増。中国人労働者が最多の被害者となる中、日本企業の海外展開戦略に与える影響を分析。
55日間。ボスニア人観光客マリン・ペトロヴィッチ氏が西アフリカ・マリの砂漠で過ごした地獄のような日々だった。「硬い地面で眠り、家畜が排泄する池の水を沸騰させて生き延びた」と彼は後に振り返る。
ペトロヴィッチ氏の体験は、2025年にサヘル地域で急増している外国人誘拐事件の縮図だ。独立系紛争監視機関アクレッドの最新データによると、マリとニジェールで外国人を標的とした誘拐事件は30件を記録し、前年を大幅に上回った。
中国人労働者が最大の標的に
特に注目すべきは被害者の国籍だ。BBC監視部門の分析によると、アフリカ全土で誘拐された外国人89人のうち、38人が中国人労働者だった。これは全体の約70%に相当し、次に多いインド人の14人を大幅に上回る。
中国人労働者の多くは、マリ南西部のカイエス、シカソ、クリコロといった金鉱地帯で働いていた。金価格の高騰を受け、中国企業がこれらの地域での事業を拡大していた矢先の出来事だった。
「中国人労働者は明らかな標的です」とアクレッドの西アフリカ上級アナリスト、ヘニ・ンサイビア氏は説明する。「マリ政府との協力関係を断ち切り、中国との二国間関係を悪化させる狙いがある」
アルカイダ系組織の経済戦略
誘拐事件の大部分を実行しているのは、アルカイダ系組織JNIM(ジャマアト・ヌスラト・アル=イスラーム・ワル=ムスリミーン)だ。経済平和研究所の推計では、身代金収入はJNIMの年間収益の最大40%を占める可能性がある。
9月にはUAEの王族とされる人物を含む2人のエミラティ国民が誘拐され、5000万ドル(約75億円)の身代金で解放されたと報じられた。「王族の身代金は、マリのジハード組織にとって最高の金づるだ」と海外メディアは報じた。
興味深いのは、JNIMが欧米人に対しては比較的慎重な姿勢を取っていることだ。ペトロヴィッチ氏のケースでは身代金なしで解放されており、ンサイビア氏は「国際社会との関係で信頼性を築こうとしている」と分析する。
日本企業への警鐘
この状況は、海外展開を積極的に進める日本企業にとって重要な示唆を含んでいる。アフリカ市場への投資を拡大するトヨタや住友商事などの日本企業は、新たなリスク評価の必要性に直面している。
特に注目すべきは、中国政府の対応の変化だ。11月27日に中国人労働者6人が誘拐されたとされる事件の後、在マリ中国大使館は「違法な」金採掘事業の停止と中国人職員の避難を求める異例の声明を発表した。
一方、73歳のオーストリア人女性エヴァ・グレツマッハー氏は誘拐から1年以上が経過した今も解放されていない。息子のクリストフ氏は「最高気温50度の砂漠で、高齢の母がどれだけ耐えられるか心配だ」と語る。
記者
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