月は誰のものか――アルテミスが問う「宇宙植民地主義」
アルテミスII打ち上げを機に、宇宙開発の裏にある「植民地主義」と「宗教」の論理を宗教学者メアリー・ジェーン・ルービンスタインの視点から読み解く。月の権利、ロングタームイズム、日本の立場まで。
月を「宇宙のガソリンスタンド」に変えようとしている人たちがいる。そして、それに「吐き気を催す」と言う学者がいる。
2026年4月1日、NASAのアルテミスIIがついに打ち上げられた。乗組員には歴史的な「初」が二つ含まれている。月周回ミッションに参加する初の女性、クリスティーナ・コッホと、初の有色人種、ビクター・グローバーだ。NASAは彼らを「パイオニア」「人類の乗組員」と称え、世界中のメディアが歓声とともに報じた。
だが、ウェズリアン大学で宗教と科学を研究するメアリー・ジェーン・ルービンスタイン教授は、この熱狂の裏側に別の物語を見ている。彼女の著書『アストロトピア:コーポレート宇宙レースの危険な宗教(Astrotopia: The Dangerous Religion of the Corporate Space Race)』は、今日の宇宙開発ブームが15世紀のヨーロッパ植民地主義と同じ論理構造を持つと主張する。
「フロンティア」という言葉の系譜
アルテミス計画の背後には、単純な科学的探求以上のものがある。民間の宇宙採掘企業が政府契約を競い合い、月の表面から「水の氷」を採掘してロケット燃料に変え、最終的には火星への踏み台にしようとしている。イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、リチャード・ブランソンといった企業家たちは、これを「人類を絶滅から救う」プロジェクトと位置づける。
ルービンスタインはこの語り口に、歴史的なパターンを見出す。かつてスペインの征服者たちは「教皇アレクサンデル6世が新世界をスペインに与えた」という宗教的権威を後ろ盾に、アメリカ大陸を「征服」した。その後、アメリカ大陸横断は「神がヨーロッパ系白人に与えた使命」として「マニフェスト・デスティニー(明白な天命)」と呼ばれた。そしてドナルド・トランプは2020年の一般教書演説で、月と火星への進出を「星々におけるアメリカの明白な天命」と表現した。
宗教的な言語は、より世俗的な形でも生き続けている。ルービンスタインが特に問題視するのは「ロングタームイズム(長期主義)」と呼ばれる思想だ。これは、遠い未来の人類の存続を最大化するために、現在の犠牲を正当化する論理である。彼女はこれを、マルコムXが批判したキリスト教の「来世での報酬」論と重ね合わせる。「今、貧困の中で死んでいく人々には何の報酬もない。人類という種だけが約束の地を見る。個々の人間は荒野で朽ちていく」とルービンスタインは語る。
「月には権利がある」という主張
宇宙が「空っぽ」だという前提も、すべての文化で共有されているわけではない。イヌイット、オジブウェ、オーストラリアのバワカの人々の宇宙観では、宇宙は先祖の霊が宿る場所であり、決して無人ではない。バワカの人々にとって、死者は天の川へと運ばれる。月の表面を採掘することは、先祖の住処を破壊することを意味する。
オーストラリアの研究者グループはさらに踏み込み、「月の権利宣言」を発表した。「自然の権利」運動が湖や森に法的人格を認めることに成功してきたように、月にも「根本的な権利」があると主張する。ルービンスタインはこのアプローチに懐疑的な面もあるが、「機能するなら試みる価値はある」と述べる。完璧な理論的枠組みを待つより、実際に機能する戦略を取ることを優先すべきだという立場だ。
宇宙開発が地球上にもたらす環境問題も見逃せない。スペースXのボカチカ基地はテキサスの湿地帯を事実上破壊した。低軌道はすでに衛星で混雑し、天文学者でさえ星を観測しにくくなっている。マスクは一度に60機の衛星を打ち上げる。
日本はどこに立つのか
ここで日本の視点を加えることは重要だ。日本はJAXAを通じてアルテミス計画に参加しており、日本人宇宙飛行士が将来の月面ミッションに搭乗することが合意されている。日本企業もまた、宇宙産業のサプライチェーンに深く組み込まれている。
しかし、日本社会がルービンスタインの批判をどう受け止めるかは、単純ではない。日本には「もったいない」という概念がある。資源を無駄にしないこと、自然への敬意という価値観だ。月の資源を採掘し尽くすという発想は、この感覚と相容れない部分がある。一方で、資源の乏しい島国として、宇宙資源へのアクセスは安全保障上の意味も持つ。
また、日本の宇宙政策は「平和利用」を基本原則としてきた。しかし、アルテミス計画の背後にある米宇宙軍の存在や、月の資源をめぐる国家間競争は、その原則をどこまで維持できるかを問い始めている。
ルービンスタインの問いかけは、技術的・経済的問題であるだけでなく、「誰のための宇宙開発か」という根本的な問いだ。彼女は宇宙探査そのものに反対しているわけではない。「持続可能な生き方を知っている人々の知恵に耳を傾けることができれば」と語る。それは天文学者でも企業リーダーでもなく、もしかしたら、長く自然と共存してきた人々かもしれない。
本コンテンツはAIが原文記事を基に要約・分析したものです。正確性に努めていますが、誤りがある可能性があります。原文の確認をお勧めします。
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