「キングメーカー」から「グリーン経済大国」へ:マレーシア・サラワク州、驚異の台頭
マレーシアの辺境と見なされてきたサラワク州が、なぜ今「グリーン経済大国」として急浮上しているのか。半島部の政治的混乱を好機に変え、独自のリーダーシップでエネルギーとハイテク産業の未来を切り拓くサラワクの戦略を解説します。
かつてマレーシアの政治的辺境と見なされてきたサラワク州が、今や連邦の「グリーン国家」として複数の野心的なプロジェクトを主導し、急速に存在感を高めています。この劇的な変革の背景には、持続可能性とクリーン電力を求める世界的な潮流、そしてより決定的な要因として、マレー半島とサラワク州との間の連邦・州関係の根本的な再構築があります。
転機となったのは、2018年に長年続いた国民戦線(BN)連合政権が崩壊し、半島部の政治が流動化・断片化したことです。決定的な瞬間は2022年の第15回総選挙後、どの政治連合も単独過半数を獲得できない状況下で、サラワク政党連合(GPS)が連邦政府の樹立を左右する「キングメーカー」として浮上したことでした。この影響力を行使し、GPSは東マレーシア初となる副首相のポストを確保するなど、連邦政府内での重要な地位を獲得しました。
半島部が政争で揺れる一方、サラワク州内ではアバン・ジョハリ・オペン州首相の下で強力なリーダーシップが確立されました。GPSは州内の多様な民族や地域を代表する政党を巧みに統合し、2021年の州選挙では全82議席中76議席を獲得する地滑り的勝利を収めました。この州内の盤石な安定と半島部の混乱という対照的な状況が、サラワク州に自らの要求を主張するための絶好の戦略的機会をもたらしたのです。
この政治的影響力を背景に、サラワク州は「1963年マレーシア協定(MA63)」に基づく権利回復を加速させています。その代表的な成功例が、石油製品に対する州売上税(SST)の導入です。州政府の発表によると、これにより2019年から2024年にかけて約195億5000万リンギットの州歳入がもたらされました。さらに、州営企業ペトロス(Petros)を通じてガス供給の規制権を掌握し、アフィン銀行の筆頭株主(31.25%)になるなど、経済的自立に向けた布石を着々と打っています。
サラワク州が現在最も注力しているのは、豊富な水力資源を基盤とした「グリーン経済」への転換です。バクン(2,400MW)などの巨大ダムが供給するクリーン電力を武器に、大規模な投資を誘致。代表的なものに、韓国のサムスンエンジニアリングなどと連携するグリーン水素プロジェクト「H2biscus」や、日本のENEOSや住友商事と進める「H2ornbill」があります。同時に、枯渇した油田を利用した二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)技術の導入や、2032年までにシンガポールへ1GWの再生可能エネルギーを輸出する計画も進めています。
エネルギー分野と並行して、半導体を中心とするハイテク産業の育成も加速しています。州は、安定したグリーン電力を提供することで半導体製造工場を誘致し、2030年までにこの分野で州のGDPに300億リンギットの貢献を目指すとしています。もはや単なる資源供給地ではないサラワク州は、マレーシアのパワーバランスを再定義し、東南アジア地域における「グリーン経済大国」としての地位を確立しつつあります。
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