「これは加工？」思わず二度見する奇跡の写真たち。専門家が語るデジタル時代の「本物」の境界線

まるで絵画のように柵で完璧に分割された風景、琥珀のように輝く洞窟の氷。思わず「フォトショップ加工だろう」と疑ってしまうほど非現実的な写真が、SNSで注目を集めています。しかし、これらは一切加工されていない、奇跡的なタイミングや偶然が生んだ「本物」の作品です。デジタル編集が当たり前になった今、私たちは一体何を「本物」と信じれば良いのでしょうか。

この問いに対し、長年ポートレート撮影を手がけるプロ写真家のアナ・チイ氏は、オンラインメディア「Bored Panda」のインタビューで興味深い見解を語っています。彼女によると、多くの人が「フォトショップ」と聞くと、顔が原型を留めないほど加工されたSNSの画像を想像しがちですが、それは一部のアプリの機能に過ぎないと言います。

「プロの現場でフォトショップは、被写体を変えるためではなく、写真の質を高めるために使われます。色や光を調整し、作品の持つ雰囲気を最大限に引き出す。それが魔法の正体です」とチイ氏は説明します。

チイ氏によれば、メイクアップアーティストやスタイリストなど万全のチームを組まない限り、撮影現場で完璧な一枚を撮ることは困難です。そのため、服のしわを消したり、光の反射を調整したりといった作業を、撮影後の編集（ポストプロダクション）で行うのはごく一般的だと言います。つまり、多くの人が「自然に見える」と感じるプロの写真も、実は細やかな編集作業を経て完成しているケースが少なくないのです。

この「本物らしさ」を巡る議論は、個人の作品だけに留まりません。ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じたように、SNS時代においては、たとえ未加工の写真であっても「加工疑惑」をかけられるケースが増えています。国際的な写真コンテストの受賞作品が、後から合成写真だと非難される事例もあり、写真における信頼性は大きく揺らいでいます。

PRISM Insight: デジタル編集ツールや画像生成AIの普及は、「写真が真実を写す」という従来の概念を根底から覆しました。これにより、私たちは画像そのものよりも、その画像の出所や文脈を批判的に吟味する「新しいビジュアルリテラシー」を身につける必要に迫られています。もはや重要なのは「本物か偽物か」という二元論ではなく、「制作者の意図は誠実か、それとも欺瞞的か」という問いなのかもしれません。