AIで注文住宅を民主化へ。一度の失敗から生まれた新星『Drafted』の挑戦
一度は事業を閉鎖した起業家が、AIを武器に注文住宅設計市場に再挑戦。新会社「Drafted」は、わずか数分・数千ドルで住宅設計図を生成し、業界の民主化を目指す。そのビジネスモデルと可能性を解説。
一度は2000万ドルを調達したスタートアップを閉鎖した起業家が、同じ問題意識からAIを武器に再び立ち上がりました。ニック・ドナヒュー氏が設立した新会社「」は、高価で時間のかかる注文住宅の設計プロセスを、AIの力で数分で完了させることを目指しています。わずか創業5ヶ月で、ストライプの共同創業者パトリック・コリソン氏など著名投資家からを調達し、評価額はに達しています。
華々しい成功と突然の挫折:「Atmos」の教訓
ドナヒュー氏が最初に立ち上げた会社「」は、テクノロジーで注文住宅の設計を効率化するサービスでした。Yコンビネータを卒業し、コースラ・ベンチャーズやサム・アルトマン氏などからを調達。従業員40人を抱え、年間売上を達成、実際にの住宅を建設する成功を収めました。しかしドナヒュー氏によれば、事業は「美化された建築事務所」のようになり、ソフトウェアが人間を完全に置き換えるには至らなかったといいます。決定打となったのは米連邦準備制度理事会(FRB)の急激な利上げで、顧客が住宅ローンを組めなくなり、9ヶ月前に事業閉鎖を余儀なくされました。
AIネイティブな再挑戦:「Drafted」の破壊力
失敗から学んだドナヒュー氏は、人間を介在させず、純粋なソフトウェアで勝負する「」を創業しました。ユーザーが寝室数や床面積などの希望を入力すると、AIが数分で5つの住宅設計案を生成。気に入らなければ何度でも再生成できます。このサービスの価格は、設計図一式でと、従来の建築家に依頼する場合に比べて圧倒的に安価です。
この低価格を実現するのが、実際に建築許可を得た本物の住宅設計図で学習させた独自のモデルです。ドナヒュー氏によると、この特化型モデルの運用コストは、汎用が13セントかかるのに対し、1設計案あたりわずかと、驚異的な効率性を誇ります。現在は平屋建てのみですが、今後は多層階建てや土地の特性に合わせた設計機能も追加予定です。
市場は存在するのか?
大きな疑問は、このサービスに十分な市場があるかという点です。米国で年間に建設される新築住宅のうち、注文住宅はに過ぎません。しかし投資家のビル・クレリコ氏は、これは「鶏が先か、卵が先か」の問題だと指摘します。注文住宅の設計が十分に安く、速くなれば、より多くの人が利用するようになると見ています。ドナヒュー氏もこれをUberの例に例え、タクシーの代替に留まらず、誰もがオンデマンド配車サービスを使うようになったように、市場そのものを拡大できる可能性があると考えています。
汎用大規模言語モデル(LLM)が注目を集める一方、Draftedの事例は、特定のドメイン知識で学習させた「特化型AI」が、コスト効率と性能の両面で既存のビジネスモデルを破壊する力を持つことを示しています。不動産や建築のような伝統的で巨大な産業ほど、こうしたバーティカルAIによる変革のポテンシャルは大きいと言えるでしょう。
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