ディケンズのクリスマス危機：1869年に消えた30ポンドの七面鳥事件

『クリスマス・キャロル』で心温まる物語を描いた作家が、自身のクリスマスディナーを食べ損ねる寸前だったとしたら？1869年12月24日の午後、文豪チャールズ・ディケンズは、届くはずの七面鳥の代わりに「あの七面鳥はどこだ？まだ届かない！」という悲痛な電報を友人に送っていました。

期待と不安のクリスマスイブ

ディケンズにとって、七面鳥はクリスマスの象徴でした。彼の作品に登場するだけでなく、彼自身も毎年、出版社から贈られる七面鳥を楽しみにしていました。事件の発端は、彼の朗読会のマネージャーであり親しい友人でもあったジョージ・ドルビーが、最高のクリスマスプレゼントとして、地元で評判の特大七面鳥を贈ることにしたことでした。

ドルビーは並々ならぬ努力の末、重さ約30ポンド（約13.6kg）もある「壮大な鳥」を確保し、クリスマスイブまでに届けるとディケンズに約束しました。しかし、約束の時間が過ぎても七面鳥は現れず、ディケンズからの冒頭の電報がドルビーの元に届いたのです。

炎に消えた贈り物

慌てたドルビーが駅へ向かう途中、駅長から衝撃の事実を知らされます。七面鳥や他の贈り物を積んだ貨物車両が、輸送中に火災に遭ったというのです。英国立鉄道博物館によると、蒸気機関車の火花がトンネル内で木製の車両に引火した可能性が考えられていますが、火災の正確な原因は今日まで謎に包まれています。

ドルビーは自身の回顧録で、「ディケンズ氏がクリスマスに七面鳥なしで過ごすことを思うと、荷物の価値など比べものにならないほど心が痛んだ」と記しています。彼はすぐに代わりの七面鳥を探すようディケンズに電報を打ちました。

ディケンズらしい結末

結局、ディケンズがその日、別の七面鳥を手に入れられたかは記録に残っていません。しかし、彼の怒りは長くは続きませんでした。翌年1870年2月5日、彼は鉄道会社に対し、「避けられない事故であったと確信しており、グレート・ウェスタン鉄道会社に対しては変わらぬ好意をもってこの損失を受け入れた」と寛大な手紙を送っています。

さらに興味深いのは、この物語の後日談です。鉄道会社は、焼けて黒焦げになった七面鳥や牛肉の残骸を、レディング市の貧しい住民たちに安価で販売しました。この出来事を聞いたディケンズは、この件について「感謝の念をもって」頻繁に語っていたとドルビーは伝えています。彼の最後のクリスマスになるかもしれなかった食事が、結果的に彼の作品のインスピレーション源であった人々を支えることになったのです。