米政府、医薬品価格交渉を本格開始:大手製薬3社に値下げ案を提示
米バイデン政権が「インフレ抑制法」に基づき、メディケア対象の医薬品10品目の価格交渉を本格開始。BMS、J&Jなどが対象。製薬業界は訴訟で対抗しており、投資家は収益への影響と訴訟リスクを注視する必要がある。
リード
米バイデン政権は、高齢者向け公的医療保険「メディケア」の対象となる高額医薬品10品目の価格引き下げに向け、製薬会社との交渉を本格的に開始しました。2022年に成立した「インフレ抑制法(IRA)」に基づくこの歴史的な動きは、医薬品業界の反発を招いており、今後の法廷闘争と交渉の行方が注目されます。
交渉の背景と詳細
メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)は、ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)、イーライリリーなどの大手製薬会社に対し、最初の価格提示を送付したことを発表しました。対象となるのは、BMSの抗凝固薬「エリキュース」やJ&Jの「イグザレルト」、イーライリリーの糖尿病治療薬「ジャディアンス」など、広く使用されている高額な医薬品です。
政府によると、これらの10品目は2022年6月1日から2023年5月31日までの1年間で、メディケアの薬剤費として505億ドル(約7.5兆円)を占めていました。政府は今回の交渉を通じて、2031年までに年間250億ドル(約3.7兆円)の薬剤費を削減することを目指しています。
製薬業界の強い反発
この動きに対し、製薬業界は強く反発しています。業界団体の米国研究製薬工業協会(PhRMA)は、「政治的に計算された茶番だ」と批判。各社は、価格交渉プログラムが違憲であるとして、複数の訴訟を提起しています。主な主張は、政府による資産の不法な収用であり、研究開発への投資意欲を削ぎ、新薬開発を妨げるというものです。
製薬会社は政府の提示に対し、30日以内に受け入れるか、対案を提示する必要があります。交渉期限は2025年8月1日で、合意に至らない場合、企業は対象医薬品の米国売上高の最大95%に相当する高額な物品税を課されるか、メディケアおよびメディケイド市場からの撤退を迫られます。
PRISM Insight:投資家への影響今回の価格交渉は、米国の医薬品価格決定メカニズムにおける根本的な変化を意味します。投資家にとって、以下の3点が重要です。訴訟リスク:製薬会社が提起した訴訟の行方が最大のリスク要因です。もし裁判所が政府のプログラムを違憲と判断すれば、交渉は白紙に戻る可能性があります。収益への直接的影響:交渉によって決定される最終的な「公正価格」が、BMSやJ&Jといった企業の将来の収益に直接影響します。各社の主力製品が対象となっているため、株価への影響は避けられないでしょう。長期的な拡大:今回の10品目は始まりに過ぎません。インフレ抑制法では、対象となる医薬品の数を今後数年で段階的に拡大する計画であり、製薬セクター全体が新たな価格圧力に直面することになります。
今後の展望
バイデン大統領は声明で「大手製薬会社と戦い、勝利を収めている」と述べ、交渉の成果を強調しました。今後1年以上にわたる交渉と法廷闘争は、米国のヘルスケア費用と製薬業界のビジネスモデルの双方に大きな影響を与える、極めて重要な局面となります。引き下げられた新価格は、2026年から適用される予定です。
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